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東京地方裁判所 平成4年(ヲ)1214号 決定 1992年10月21日

当事者 別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  引渡命令の執行までの間、本件土地・建物に対する相手方らの占有を解いて、東京地方裁判所執行官に保管を命じる。

二  執行官は、その占有にかかることを公示するため、適当な方法をとらなければならない。

理由

一本件は、買受人のための保全処分として、主文記載の命令を求める事件である。

二本件記録によれば、以下の事実が一応認められる。

(一)  申立人は、相手方五州株式会社(以下、相手方五州という。)所有の本件土地・建物について、平成三年八月七日、当庁に抵当権の実行としての競売の申立てをし、同月八日、競売開始決定及び差押えの登記がそれぞれなされた。

(二)  平成三年八月二九日、執行官が現況調査に赴いたところ、本件建物の入口扉に「株式会社○○企画管理者西村総業事業社担当K」の張り紙が貼ってあったが、施錠してあったので、同年九月五日、執行官が解錠のうえ本件建物を調査したところ、全くの空き家であった。そこで、執行官が相手方西村総業事業社ことK(以下、相手方Kという。)に事情聴取をしたところ、「相手方株式会社○○企画(以下、相手方○○企画という。)が、相手方五州に対し債権があり、賃借権仮登記もとっている。相手方○○企画から管理を頼まれて張り紙を出している。」旨回答した。なお、相手方○○企画は、本件土地・建物について、同年六月六日受付で、極度額一〇億円、債務者相手方五州とする根抵当権設定仮登記及び同年二月二八日設定(条件同日根抵当権確定債権の債務不履行)とする条件付賃借権設定仮登記を行っている。

(三)  当裁判所は、平成四年六月五日、本件土地・建物について最低売却価額を合計三億四五五四万円と定めたうえ、同月二六日、入札期間を同年八月二七日から九月三日まで、売却決定期日を同月一七日とする旨の売却実施命令を発した。申立人は、保証金六九一〇万八〇〇〇円を金銭で納付したうえ、入札価額を一二億七五〇〇万円として入札し、前記売却決定期日に売却を許可され、同決定は確定した。申立人は、平成四年九月一〇日、配当を受けるべき額を差し引いて代金を配当期日に納付する、いわゆる差引納付の申出をした。

(四)  その後、申立人が、平成四年一〇月六日、本件土地・建物の現地調査に赴いたところ、本件建物の入口扉に、執行官の現況調査時にはなかった「住吉会西井会中島組 K 無断立入禁止 立入った場合厳罰に処す」との張り紙が加えられていた。更に、申立人が、同月一九日、現地調査をしたところ、本件建物の入口扉は施錠されておらず、内部にも入口扉と同様の張り紙が貼られてあったが、三階の北側一室を除き、床はほこり等で汚れており、使用されている形跡はなかった(ただし、三階の北側一室は、机、ビデオデッキ等の器材が置かれており、天井に裸電球が取りつけられている等直ちに事務所等として使用されかねない状況であった。)。

(五)  相手方○○企画及び相手方Kは暴力団と密接な関係があると疑うべき根拠がある。

三以上の事実によれば、相手方らは、引渡命令の執行までの間、執行妨害を目的として、本件土地(駐車スペース部分)・建物を自ら占有したり、第三者に占有させるなどして(引渡命令の発令前、後にかかわらず)任意の明渡しを拒んだり、引渡命令の執行に際し各種の妨害をしたり、または、本件土地・建物の占有者を転々と移転するなど本件土地・建物の引き渡しを困難にする行為をするおそれがあるといえる。

なお、本件は差引納付の事案であるところ、差引納付の申出をした買受人が売却代金を納付しなくても買受人のための保全処分を発令することができると解するのが相当である。なぜならば、民事執行法七七条が保全処分を発令する場合には買受人に代金を納付させなければならないと規定しているのは、代金を納付する意思のない者が保全処分を得て、所有者に圧力をかけ、不当な金銭を得るといった濫用を防止する趣旨からであるが、そもそも差引納付制度が適用される買受人は、あらかじめ配当等の財源を確保しなくても配当等の実施時までに差引額の納付される蓋然性の高い者と認められる者であり、上記のような濫用のおそれはないといっていいからである。

よって、申立人の本件申立ては理由があるので、民事執行法七七条(一八八条)に基づき、主文のとおり決定する。

(裁判官大澤晃)

別紙当事者目録

申立人 三井不動産ファイナンス株式会社代表者代表取締役

梅田健一

申立人代理人 弁護士松田耕治

同 弁護士溝口敬人

相手方 五州株式会社

右代表者代表取締役 村田修

相手方 株式会社○○企画代表者代表取締役 T

相手方 西村総業事業社こと K

別紙物件目録

(一) 所在 東京都港区南青山四丁目

地番 二三五番

地目 宅地

面積 189.88平方メートル

(二) 所在 同所二三五番地

家屋番号 二三五番

種類 居宅

構造 鉄筋コンクリート造軽量鉄骨造陸屋根三階建

床面積

一階 52.80平方メートル

二階 79.20平方メートル

三階 55.36平方メートル

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